死亡退職金制度とその相場とは?生前退職金との違いや適正額
公開日 : 2020/2/28
更新日 : 2020/9/10
従業員が死亡したら死亡退職金が支給されることがあります。死亡退職金制度が整備されている会社での支給相場や生前退職金との違い、適正額について調べています。自社の退職金制度を知り、他社に比べて支給額に差があるのかどうかをよく調べておきましょう。
公開日 : 2020/2/28
更新日 : 2020/9/10
目次
死亡退職金の基礎知識
会社によって退職金制度の仕組みが異なります。退職金制度が制定されている会社でも死亡退職金の制度が定められていない場合があります。
会社によっては、従業員が死亡したときに、支払われるはずだった退職金が遺族に支払われることがあります。退職金制度の内容をよく確認することが重要です。ここでは、死亡退職金に関する基本的な知識について解説します。
死亡退職金とは?
死亡退職金は、亡くなった人が受け取るべき退職金のことで、受取人は遺族です。
多くの会社では、退職給付制度と呼ばれる退職金の支払いに関する制度を設けています。
そして、会社で働いている従業員が死亡したときに、遺族に死亡退職金を支給するという旨を定めています。
死亡退職金と弔慰金との違い
会社の従業員が死亡したときには、会社は弔慰金を支給するという制度を作っている場合があります。これは、一般には弔慰金制度のことです。
会社から弔慰金を支給する場合、故人への功労として遺族に渡すという意味合いが強く、遺族の方が故人の死後も生活を安定させるのに送るような形です。
弔慰金は、会社に勤めていた従業員だけではなく、その従業員の家族の方が亡くなったときにも支給される場合がありますが、それぞれの会社ごとに対応は異なります。
次に、死亡退職金と弔慰金は、よく似ていますがこの2つは全く異なるものです。
死亡退職金は、故人が受け取るはずだった退職金のことです。故人はすでに亡くなってしまっているので、代わりに残された遺族の方が受け取ります。
弔慰金は、退職金に比べると額も少額です。課税対象額を超えるような金額を支給することは少なく、弔慰金の規定にも退職金制度と同様に、支給対象者や金額などの決まり事が定められています。
後にご説明しますが、死亡退職金は相続税の対象となってしまいます。支給される退職金の額が多いほど、相続税の支払いリスクが高まります。受取人が誰になるのかによっても非課税対象枠が異なりますので、退職金制度と相続税をよく理解し、できる限り税金を少なくする節税対策を施す必要があるでしょう。
一般的な死亡退職金制度の仕組み
まず、お勤めの会社で退職金給付制度があり、その制度の中に死亡退職金に関する規定があるのかどうかを確認してください。
さらに、支給対象となる条件を確認し、その条件に該当するのであれば、従業員が何らかの事情で死亡した場合に、死亡退職金が支給されます。
国が強制的に退職金や死亡退職金を支払わせることはできません。退職金制度は、企業が任意に決めている制度です。
逆に規定になくても、死亡退職金を支給するケースがありますし、死亡弔慰金として支給している会社も存在します。
勤務先に死亡退職金に関する規定を確認
就業規則を定めている企業は多数ありますが、退職金制度は、8割程度の企業が採用しています。
退職金の支給方法もさまざまです。退職一時金や退職後の分割して年金として支払う企業年金の形で退職金が支給される場合があります。
死亡退職金と同等の仕組みとしては、企業型確定拠出年金では「死亡一時金」、厚生年金基金や確定給付企業年金では「遺族給付金」があります。
それぞれの年金の加入者が死亡した場合に、その遺族が給付金を受け取れます。
死亡退職金をもらうための条件
遺族が死亡退職金を受け取れるかどうかは、各企業の就業規則を確認しなければなりません。
就業規則があり、そこに退職金制度が定められていれば、死亡退職金に関する規定に則って、支給されます。
各個人の勤続年数や功績などによっても、支給される額が各個人によって異なり、支給されないケースもありますのであらかじめ確認しておくほうがいいでしょう。
気になる死亡退職金の相場
死亡退職金の支給額は、各企業の就業規則に定められた退職金の死亡退職金に関する規定を見る必要があります。
一般的な退職金の支給額も勤続年数や功績などにより、支給額が大きく変わります。
死亡退職金に関する支給相場は、センシティブな個人情報です。個々人が公表している例は非常に少ないと考えてください。
そこで、厚生労働省が公表している統計などからその相場について類推するようにしましょう。
受け取る死亡退職金は一般的な従業員の退職金相場から推測
例えば、厚生労働省が公表している「平成30年就労条件総合調査」を参考にしてみましょう。
この調査に記載されている「定年退職者1人あたりの平均退職給付額」を抜粋すると、一般的な退職金に関する相場が見えてきます。
退職金が支給される勤続年数といえば、勤続20年以上です。高卒や大卒で入社して最短で退職金をもらう場合は、年齢は45歳に達しているでしょう。
そこで、勤続20年以上で45歳以上の退職者を対象に勤続年数別に退職金の支給額をまとめていきます。
注意点としては、管理職や事務職、技術職などの従業員を全てまとめていますので、おおよその数字にしかならないことです。
あくまでも死亡退職金がいくらもらえるのかを知る参考程度に留めておいてください。
勤続年数 | 大学卒 | 高校卒 |
20~24年 | 1,267万円 | 525万円 |
25~29年 | 1,395万円 | 745万円 |
30~34年 | 1,794万円 | 928万円 |
35年以上 | 2,173万円 | 1,954万円 |
これらの金額を見ると、大学卒なら、1,000万円~2,000万円を超える退職金が平均的に支給されるようです。
死亡退職金になると、各企業によって減額されたり、他の加減算要素が加わったりすることがあります。
これらの相場はあくまでも平均的で大雑把な数字ですが、死亡退職金を算定するのに役立つでしょう。
各企業において、退職金や死亡退職金の支給額事例などが公表されていることがあります。
気になることは、企業の総務部や人事部などで確認するようにしましょう。
【参考】中小企業の経営者の死亡退職金相場
会社は大企業ばかりではありませんし、中小企業も数多く存在します。
また、従業員ばかりではなく、経営者などの役員も退職金制度を設定し、死亡退職金に関する規定を設けていることがあります。
参考情報にはなりますが、中小企業の経営者の死亡退職金相場についても、役員退職金の相場からその額を類推してみましょう。
役位 | 支給額 | 退任時の年齢 | 通算役員在任年数 | 退任時の報酬月額 |
会長 | 2,547万円 | 74.8歳 | 35.0年 | 151.8万円 |
社長 | 4,004万円 | 66.6歳 | 23.8年 | 112.1万円 |
専務 | 2,428万円 | 65.8歳 | 24.8年 | 80.0万円 |
常務 | 1,745万円 | 65.5歳 | 17.6年 | 80.1万円 |
取締役 | 957万円 | 65.3歳 | 11.5年 | 60.0万円 |
あくまでも平均的な支給額になりますので、中小企業によっては、世間相場の平均額よりも多くの役員退職金をもらっていることがあります。
中小企業の社長なら4,000万円近くの役員退職金をもらっています。死亡退職金に関しての相場もかなり多くなるはずです。遺族の方は高額の退職金がもらえることがわかっている場合、事前に相続税などの節税対策を行うべきでしょう。
また、企業側でも法人税で損金算入できない不相当に高額となる役員退職金の取り扱いについては、税務署に指摘されないように、あらかじめ顧問税理士などにも相談しておくべきです。
死亡退職金の課税対象額に注意!
死亡退職金は、相続税の課税対象ですので、高額となる死亡退職金に関しては、税務署への申告や納税が必要です。
しかし、死亡退職金の全額が相続税の課税対象額となるわけではありません。非課税枠が設けられており、支給される死亡退職金が非課税限度額内に収まっているなら、相続税を支払う必要はありません。
死亡退職金の非課税枠にも注意
死亡退職金の非課税限度額は、相続税にもきちんと定められていますので、支給される金額がわかったら、すぐにでも計算することができます。
注意点は、遺族の方が死亡退職金を受け取る場合の受取人を誰にすべきかです。
受取人は配偶者が指定されていることが多く、就業規定や退職金規定にも明確に記載されています。
しかし、受取人の記載がない場合は、民法に規定される法定相続人が受け取ります。
法定相続人は、配偶者で、その次が故人の子、親、兄弟姉妹の順番になっています。
非課税限度額の計算方法は、
非課税限度額=500万円×法定相続人の数
です。
法定相続人以外が死亡退職金を受け取っても相続税の非課税限度額が全くないので、全額相続税の課税対象になってしまう点に注意しておきましょう。
死亡退職金をもらう前に注意したい相続税
退職金規定に死亡退職金に関する定めがあり、条件を満たせば、故人の退職金を死亡退職金として遺族が受け取ることが可能です。
しかし、退職金の相場と同じ額の死亡退職金を受け取れない場合があります。
多くは、相続税の問題です。法定相続人が受け取らない場合や受取額が相続税の非課税限度額を超えてしまう場合は、逆に手取り額が減ってしまうので何らかの節税対策が必要です。
相続税が死亡退職金の手取り額を減少させる
もともとはその会社に勤務していた人が受け取るべき退職金ですので、その退職金を遺族の方が死亡退職金として受け取る場合には、相続税がかかることがあります。
死亡退職金は、財産を相続したものとみなされ、遺族の方が受け取る場合には、相続税を支払わなければならないことがあります。
相続財産として取り扱われるのかどうかは、故人が亡くなった日から3年以内に支給額が確定した場合です。
また、被相続人が亡くなる前に退職していた場合でも、退職金の支給額が被相続人の死亡から3年以内に確定している場合なども相続財産として認められます。
ここで重要となるのは、相続税の非課税枠の額です。
非課税限度額の計算方法は、
非課税限度額=500万円×法定相続人の数
となっていますので、法定相続人の数が少ないほど、相続税の支払い額が増えてしまう仕組みです。
逆に、法定相続人以外の人が死亡退職金を受け取っても、相続税の非課税限度額の適用はありませんので、全額が相続税の支払い対象額になってしまいます。
死亡退職金の受取額を減らさないためにも、あらかじめ法定相続人を全員確定して相続に関するトラブルを予防しておいたほうがいいでしょう。特に退職金が高額となる役員退職金の場合は、事前の節税対策が重要なものとなります。
死亡退職金の受取人が記載されているか?
死亡退職金に関する規定は、就業規則の退職金規定の中に定められています。
死亡退職金に関して支払う予定のない企業の中には、退職金規定の中に死亡退職金の項目があってもあまり細かい内容が指定されていないことがあります。税法や細かい計算方法などの記載がない場合は、受取人に関する規定に関しても明確な記載がない場合があります。
受取人の記載がない場合でも民法に規定されている法定相続人が受け取るようになっているので心配はありません。法律に疎い方も多いので、必ず就業規則や退職金制度に詳しい各専門分野の法律の専門家に相談してください。
法定相続人が受取人となる場合は、第一に配偶者(夫や妻)が優先されます。その次が故人の子供、両親、兄弟姉妹の順番になっています。
法定相続人が多いほど一人がもらえる死亡退職金の金額は減りますが、非課税枠が増えます。もらえる死亡退職金が相場よりも多い場合は、できる限り支払う相続税額を減らす努力をすべきでしょう。
高額な経営者の死亡退職金は要注意!
役員退職金に対する死亡退職金は、そもそも高額な退職金が支給されますので、世間相場よりも高すぎるケースでは注意しなければならないことがあります。
多大な功績のあった役員に高額の死亡退職金を支給し、後になって税務署から「不相当に高額である」と指摘された場合は、損金として認められない場合があり、相続税の課税対象になってしまいます。
顧問税理士とも相談し、同地域での同業他社との比較により、役員退職金や死亡退職金が高すぎないかどうかを検討しながら、役員報酬や役員退職金の支給額を決めるべきでしょう。
死亡退職金制度とその相場についてのまとめ
今回は死亡退職金制度とその相場についてご説明しました。死亡退職金と生前退職金との違いや適正額を知ることはとても重要なことです。死亡退職金制度があるのに、もらい忘れている方も多いはずです。
従業員だけではなく、役員に関しても死亡退職金が支給されることがあります。そのため、一般企業の退職金支給額と中小企業の役員退職金支給額の統計データについて掲載しました。
自社の退職金制度をよく知り、他社に比べて支給額に差があるのかどうかをよく調べ、不相当に高い、あるいは不相当に低い、という場合もあります。今後もその会社に長期間勤めるのであれば、当然ながら知っておくべき事項ですので、遠慮なく会社の総務部や人事部に確認するようにしましょう。
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