【錫杖】お坊さんが持っている、あの音のするものは何?【仏具】

公開日 : 2020/4/20

更新日 : 2020/9/10

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お坊さんがいつも持っている、あのシャン、シャン…と音のするものは何?葬儀や通夜、お盆などでみかけて、不思議に思っていた方もいらっしゃるのではないでしょうか。あのお坊さんが持つ音のする杖、「錫杖(しゃくじょう)についてご紹介します。

公開日 : 2020/4/20

更新日 : 2020/9/10

目次

錫杖は、修行僧が常備する仏具のひとつ

錫杖は「しゃくじょう」と読み、僧侶が持つ仏具のひとつです。仏教には大乗仏教と小乗仏教という2つの大きな流れ(流派)があり、錫杖は大乗仏教の修行僧である比丘(「びく」と読みます)が持つ「比丘十八物(びくじゅうはちもつ)」と呼ばれる18の法具(ほうぐ)のひとつです。
 
比丘十八物には錫杖のほかにも、袈裟や鉢(食器)、手巾(手ぬぐい)、香炉といった道具のほか、お経や仏像も含まれています。
 
修行僧がいつでもどこでも僧侶としてのつとめを果たせるようにする、いわば僧侶としての仕事し、生活をしていくために常備する道具です。

錫杖の形状とその意味

錫杖は金属(銅や鉄)で作られている杖です。近年では、錆びにくいステンレスが使われることもあります。杖の先端の方に丸い輪っかが付いており、その輪っかに遊環(ゆかん)と呼ばれる金属の輪が何個かかけられています。

 

杖を振ると、この輪っかが互いに打ちあってシャン、シャンという音を奏でます。遊環はシンプルな輪であることがほとんどですが、遊環をかける輪の部分には、仏具らしい、さまざまな意匠が懲らされることが多くなっています。

 

1本の錫杖に付ける遊環の数は4個・6個・12個と数が決められており、それぞれに意味があります。4個は四諦(「したい」=仏教の基本的な真理)をあらわし、6個は六波羅蜜(「ろくはらみつ」=仏の境地にいたるための6つの修行)、12個は十二因縁(「じゅうにいんねん」=苦悩を断つための12の条件))をそれぞれあらわしているとされています。

 

また4個は声聞(「しょうもん」=仏の教えを聞く)の錫杖、6個は菩薩の錫杖、12個は緑覚(「えんがく」=仏教の聖者)の錫杖とも呼ばれています。

 

錫杖は杖として歩きながら使うものであり、長さは身長とほぼ同じ高さ、おおよそ170cm前後となっています。杖としてではなく、法要などで仏具として使われる際にはごく短い錫杖が使われており、これは「手錫杖」と呼ばれています。

錫杖は、日本では非常になじみのある仏具

上述しましたように錫杖は比丘十八物のひとつであり、大乗仏教の修行僧は常備するものとされています。「乗」とは乗ることの意味であり、大「乗」仏教は、その名の通り小「乗」仏教より、乗るものが大きいという考え方です。委ねられるものが大きい、いわゆる「信じればどのようなもの(衆生)も救われる」という教えです。
 
現在の日本の仏教宗派は、その多くが鎌倉時代に成立した鎌倉仏教です。浄土宗・浄土真宗・臨済宗・曹洞宗・日蓮宗など、日本の仏教宗派は多くが大乗仏教です。そのため比丘十八物である錫杖は、日本人であるわたしたちがよく見かける仏具になっています。
 
錫杖は日本では仏教が持たらされたのとほぼ同時期、6世紀ごろに中国から伝えられたとされています。7世紀につくられた有名な法隆寺の玉虫厨子(たまむしのずし)にも錫杖の図が描かれており、日本人にも古くからなじみのある仏具と言えます。
 
僧侶だけでなく、日本中いたるところにある地蔵菩薩の像(お地蔵さん)が持っているのもよく見かけられます。地蔵菩薩は閻魔大王の化身ともされ、仏教において命あるもの(衆生)が輪廻転生する人・天・地獄・餓鬼・畜生・修羅の6つの道(六道)をまわって人々を救済するとされています。
 
6つの道をめぐる地蔵菩薩の右手は、錫杖を持った姿で描かれたり、像が作られたりすることが一般的です。左手には仏の教えを象徴する宝珠(ほうじゅ)を持っています。
 
お地蔵さんが6つ並んで設置されたいわゆる「六地蔵」は、六道すべてを地蔵菩薩が回ることを象徴しています。 地蔵菩薩のほかにも、千手観音の仏像でも錫杖を持っている姿がよく見かけられます。
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お坊さんはなぜ錫杖を持っている?

仏教にはその名も「錫杖経」というお経があります。「聞錫杖聲 速得解脱(もんしゃくじょうしょう そくとくげだつ) 」、すなわち「錫杖の音を聞けば速やかに惑いから解きはなたれる」とされています。また錫杖は「智杖」「徳杖」とも呼ばれてきたともされています。
 
錫杖の音は浄めであるとともに迷いを打ち消すものとされ、いわば僧侶による「魔除け」の道具として使われてきました。山で修行する時には僧侶がその音で魔をはらい、また民家で托鉢(「たくはつ」=民家で読経し、食べ物などを乞う修行)を行う際には、家の前で錫杖を鳴らし、その音により家の人がお坊さんが来たことを知ったとされています。
 
現在でも法要などさまざまな場面で使われており、日本人が目にすることが多い仏具です。四国八十八箇所のお遍路参りでガイド役をつとめる「先達」と呼ばれる方々は、伝統的に赤い錫杖を持つことになっています。
 
またお地蔵さんもそうですが、錫杖を持つのは右手と決まっています。これは仏教では僧侶の利き手によらず、右手は清浄な手(浄手)、左手は不浄な手とされているからです。仏教発祥の地・インドでは現在も食事の際には左手を使わず、右手のみを使うのがマナーとされています。

錫杖の仏具以外の用途

錫杖は、少林寺拳法では武器として使われています。武器を使う修行は「錫杖伝」と呼ばれており、身長とほぼ同じくらいの長さの錫杖を使うとされています。ほかにもマンガやアニメなどで、僧侶のキャラクターが使う武器として描かれることもあります。
 
また錫杖はその音色を活かして楽器のように使われることもありあす。お祭りなどで昔の鳶職の姿をした、いわゆる「手古舞(てこまい)」が歌いながら歩く際には、右手に錫杖を持って練り歩くのが一般的です。

錫杖はどこで買える?

錫杖は仏具、もしくは拳法での武器用途として市販されています。職人による手作りのものがほとんどであり、1本1万円ほどから、高価なものでは数万円の製品もあります。杖の先端の遊環をつける部分と、棒の部分とが別々に販売されていることもあります。
 
材質も鉄・銅だけではなく、真鍮やステンレス製の製品もあります。またお守りとして、ストラップに付けるような小さな錫杖も市販されています。

まとめ

シャン、シャンという音とともに、魔をはらい、場を浄める錫杖。わたしたち日本人にとって非常になじみ深く、お坊さんを象徴する仏具であると言えるでしょう。今度法要などで目にする機会があればそんなことに思いをはせ、その音に耳をすませてみるのもいいかもしれません。