死化粧の目的と執り行う際の注意点についてわかりやすく解説
公開日 : 2021/3/21
更新日 : 2021/3/21
死化粧とは故人が穏やかで、かつ自然な表情になるよう化粧を施す行為のことです。ただし、亡くなってすぐ死化粧が行われるわけでは無く、衛生管理上いろいろなプロセスを経ることが必要です。今回は死化粧の目的や手順、執り行う際の注意点について解説します。
公開日 : 2021/3/21
更新日 : 2021/3/21
目次
死化粧の必要性について
家族が亡くなり、ご遺族は悲しみの中で通夜・葬儀・告別式の準備へ取り掛かることになるでしょう。この儀式の際、故人が疲れ切った表情のままで、最後の別れを参列者と共に行うのは辛いものです。そんなことの無いように施されるのが「死化粧」です。
死化粧とは故人が穏やかで、かつ自然な表情になるよう化粧を施す行為のことです。亡くなった後、衛生管理上のプロセスを経て死化粧が施されます。まずは死化粧の読み方、そして死化粧の目的を解説します。
死化粧の読み方
死化粧は「しにげしょう」と呼びます。亡くなった人に施す化粧です。死化粧をご遺体の処置の一部と捉え「エンゼルケア」と呼ばれることもあります。この死化粧は現在において、主に最期を看取った医療機関で行われる場合がほとんどです。
ただし、亡くなってからいきなり化粧を施すわけでは無く、然るべき手順を終えた後で行われます。女性にはファンデーションや口紅等を塗ります。一方、男性は伸びた髭や髪を整えます。
死化粧の目的とは
死化粧は、必ず行うべき作業ではありません。しかし、ご遺体の外見を整えることで故人の尊厳が守られ、ご遺族の気持ちを癒すことにもつながります。
また、故人が生前の元気だった頃に近い容姿を取り戻せば、ご遺族そして葬儀・告別式の参列者が穏やかにお見送りすることもできるはずです。このように、死化粧は故人を見送るために欠かせない行為と言えます。
死化粧の歴史と死化粧師
死化粧は、極楽浄土へ向かおうとする故人の最後の身だしなみです。ご遺体への死化粧は主に看護師の他、葬儀会社に在籍する死化粧師が行ってくれます。
こちらでは、死化粧の歴史そして死化粧師とはどんな職業なのかについて解説します。
死化粧・湯灌の歴史
亡くなった人を入浴させ洗浄し、その身なりを整えることは昔から行われていました。入浴させ洗浄する行為は「湯灌」と言われ、中国から禅宗が伝来された鎌倉時代には執り行われています。
江戸時代には、個人の家で湯灌をすることに抵抗のある方々へ配慮し、湯灌場をもうけた寺院も存在しています。このように故人を清め、身だしなみを整えて見送るという風習は、古くからあったのです。
死化粧師とは
死化粧師はあくまで通称であり、正確には「遺体美粧衛生師」という名称です。衛生処置、冷却による状態管理技術で腐敗を抑制、閉眼・閉口など表情を整える専門技術と、ご遺体に特化した独自のメイク技術を有する専門家です。
死化粧師(遺体美粧衛生師)が在籍している葬儀社もあり、ご遺体の尊厳を守り、ご遺族の安心と安全のための処置を担います。こちらでは、死化粧師(遺体美粧衛生師が行う業務、その資格取得、死化粧はご遺族が施すこともできるのかを解説します。
死化粧師という仕事
遺体美粧衛生師は、単にご遺体へ化粧を施すだけではありません。次のような遺体美粧衛生を行う役割があります。
- 衛生処置:ご遺体の清拭や口への詰め物、乾燥予防処置、痛々しい治療痕・傷等からの血液・体液の流出の対応、予防・防止処置。
- 状態管理:ご遺体を冷却する状態管理処置が行われ、ご遺体に起こる様々な変化を抑制する。
- 整顔:ご遺体の目・口を閉じ、苦悶の表情ならば眠っているような穏やかな表情に整える。
- メイクアップ:肌の乾燥や変色にも対応する独自のスキンケア、化粧で生前とほとんど変わらない自然な肌色に整える。
この様にご遺体の見栄えを良くする他、遺体の腐敗を可能な限り遅らせ、火葬するまで、遺族・参列者に不快な思いをさせない処置も施す業務が含まれます。
死化粧師へなるには資格が必要?
死化粧師(遺体美粧衛生師)には、高度な遺体美粧衛生技術が求められます。しかし、国家資格ではありません。
「有限会社エル・プランナー」が認定する民間資格です。葬祭業者の方々(葬祭業就業年数3年以上)が対象とされ、美粧衛生師を養成、修練課程を経て認定試験が実施されています。
座学はもとより実技実習100時間、実地訓練1年間という期間を設け死化粧師(遺体美粧衛生師)のノウハウを学んでいきます。そのため、死化粧・死後ケア・冷却管理業務に関しての信頼できる技術者が育成されます。
故人の死化粧は自分や家族ができるのか?
看護師や死化粧師(遺体美粧衛生師)に頼まなくても、もちろん遺族の方々が死化粧を施しても構いません。基本的に「死化粧は専門家がしなければいけない。」と法律で決められてはいません。死化粧を看護師等に頼むか、自らで行うかはご遺族の判断次第です。
また、死化粧を行うかどうかは各医療機関で異なり、医療機関で実施しないケースもあり得ます。そのため、前もって葬儀社に在籍している遺体美粧衛生師へ依頼することも検討しておいた方が無難です。
死化粧を執り行う流れについて
死化粧は迅速かつ慎重にご遺体へ施されます。既に亡くなっている以上、生体としての機能は失われており、ご遺体の変化は進行していきます。故人の火葬までの間、故人の尊厳とご遺族が心を穏やかに保つため、適切なプロセスを踏んで行われます。
こちらでは死化粧の準備段階、ご遺体の清拭または湯灌、死化粧の手順を解説していきます。
死化粧の準備
医療機関の場合はまず亡くなったことを医師が確認、その後に次の作業を行います。
(手順1)ご遺体から医療器具を外す
ご遺体に挿入または取り付けられていた点滴、ドレーン(誘導管・排液管)やチューブのような医療器具・機器を取り外します。取り付けていた箇所や傷口が目立つ場合、痛々しい場合はケアを行います。
(手順2)胃の内容物・排泄物の除去
生体機能が失われている以上、胃の中の内容物、尿や便等が体内に残されたままとなり、いずれは漏れ出てしまいます。そのため、異臭の発生・遺体が傷むのを遅らせる作業が行われます。
具体的には鼻腔内を吸引し、腹部を圧迫することで、尿・便・胃の中の内容物のような体内に残っているものを排出します。必要ならば紙オムツ・パッド等も利用します。
(手順3)口腔ケアを施す
尿・便・胃の中の内容物を排出させたら、口の中の汚れを取り去ります。アルコール・オキシドールを使用し、ガーゼで拭く等して臭気の発生を予防します。口まわりはすぐ死後硬直が現れる部位となるので、口腔ケアを行います。
全身の清拭または湯灌を行う
ご遺体の全身を拭き清潔にします。また、前述した湯灌が行われる場合もあります。ただし、湯灌は重労働な上に手間もかかるので、医療機関では清拭(せいしき)が主に行われます。ご遺族が希望すれば、湯灌を葬儀社が行ってくれることもあります。
ご遺体の皮膚は生体機能が失われている以上、乾燥しやすい状態となっています。そのため、全身を拭いた後または湯灌後、乾燥防止に保湿ローション等を用いて保湿します。
着替え後に死化粧を行う
全身の清拭または湯灌後、以前であれば耳・鼻・口・肛門等から体液が漏れ出すことを避ける目的で、綿詰めが行われていました。最近では、あまり効果が無いのでは?と疑問も持たれ、綿詰めを行わないケースも増えています。
死化粧の前にご遺体を浴衣や死装束などへ着替えさせます。もちろん、故人が生前に希望していた服装へ着替えさせることもできます。
服装が整ったら故人の髪を櫛やブラシでとかし、顔色に応じて化粧が施されます。男性ならば髭剃りをします。故人の顔の皮膚がこわばっているなら、乳液等も使用し柔軟にして見栄えを良くします。その後は手を合掌の形にし、顔に白布、遺体はシーツをかけます。
死化粧を遺族が行う場合のコツ
遺族が死化粧を行うことも可能です。ただし、故人の状態も考慮しつつ化粧が行われなければいけません。故人を可能な限り、元気だった頃の姿に近づけることが大切です。こちらでは薄化粧が最適であること、肌の乾燥の早さを考慮することについて解説します。
薄化粧が最適
死化粧の目的は故人を可能な限り、元気だった頃の姿へ近づけることにあります。そのため、濃い化粧はかえって不自然さが際立つことになるはずです。薄化粧が最適です。
死化粧であっても通常のファンデーションやコンシーラー、チーク、口紅といった一般的に使われている化粧道具を利用します。特に口紅の場合、赤系よりはピンク系のものを使用した方が自然に仕上がります。
また、故人が愛用していた化粧品を持参し、こちらを利用した方が、より生前の見慣れた姿へ近づくことでしょう。
肌の乾燥の早さを考慮
ファンデーションの場合、粉状のものではなく液体状がより肌になじみます。ご遺体の乾燥が進むのは非常に早く、保湿が肝心です。
肌の乾燥は化粧に大きく影響するので、死者の肌の変化も考慮して作業をしましょう。また、肌の乾燥は故人が女性の場合の他、男性も同様なので髭剃りだけではなく、ファンデーションを使用することも考慮します。
死化粧を執り行う際の注意点
死化粧は看護師や死化粧師(遺体美粧衛生師)へ全くお任せしても構いません。ご遺族が行うよりも経験は豊富なので、故人の顔は生前に近いものとなることが期待できます。ただし、死化粧を行う際、気を付けるべき点もあります。
希望があれば死化粧を行う前に伝える
ご自分の家庭で、宗教上の理由または慣習等で死化粧に特別な希望があるなら、忘れずに看護師や死化粧師(遺体美粧衛生師)へ、前もって伝えておくようにしましょう。
各宗派や地域の慣習によって、特別な死化粧の作法があるかもしれません。気になるならば、その風習に詳しい人へ確認してみることが大切です。
一方、たとえ宗教や慣習的な事情が無くても、故人が「いつも塗っていた口紅を使って欲しい。」「生前につけた額の傷を、本人が気にしていたので前髪をおろしてあげてほしい。」等という細かな希望があれば、それも伝えておくことが大切です。
希望の死化粧で見栄えを良くし、悔いなく故人を見送る準備が整えば、ご遺族も安心でき故人も憂いなく極楽へ旅立てることでしょう。
ご自宅で亡くなった場合
現在、医療機関で亡くなる方々の割合は8割以上と言われています。逆に言えば2割近くの方々は医療機関以外で亡くなっています。
もしも家族の誰が自宅で臨終を迎えたら、ご遺族が勝手に死亡したと判断して、葬儀社を依頼したり、死化粧を行ったりしないようにしましょう。
まずは、かかりつけの医師に自宅へ来てもらい「死亡確認」を行う必要があります。かかりつけの医師と連絡が取れないなら、医療機関の救急へ連絡しましょう。その駆けつけた医師が確認を行ってくれます。
確認後に「死亡診断書」を発行してもらえます。なお、死因が不明の場合、事件性が疑われる場合は警察の検視を受け、司法解剖が行われます。検視では「死体検案書」が発行されます。
「死亡診断書」または「死体検案書」の発行後に葬儀社へ連絡し、通夜・葬儀、火葬の手配を行います。また、葬儀社と相談して湯灌や死化粧を施すかどうかについて決めましょう。
ご遺族が死化粧を施したい場合
前述したように死化粧はご遺族が行っても構いません。ご遺族が化粧を施すならば、故人の生前の化粧に近い姿が再現できることでしょう。
ただし、使用する化粧道具には注意が必要です。ご遺体の場合、たとえ湯灌等で綺麗にしても肌の状態は悪くなってしまうはずです。
ご自分の普段から使っている化粧品を使用するのは、感染症のリスクを考慮し避けましょう。故人の化粧品を使い、その後は使用した化粧品を形見として残し使わないようにします。または死化粧用に100円ショップなどで化粧道具を揃えて、使用後は廃棄したほうが無難です。
死化粧の料金はどのくらい?
死化粧の料金は、「一律〇〇〇〇円」と決まっているわけではありません。医療機関で死化粧を行うなら無料になることがあれば、3,000円~15,000円くらい実費で請求されることもあります。
また、看護師ではなく提携先の業者に依頼するケースも考えられ、この場合は数万円程度かかることがあります。
一方、ご遺体の安置から火葬までの時間が長くなることや、夏場でどうしてもご遺体の傷みが早くなることも考えられます。その場合に「エンバーミング」という長期保存処置を行います。
エンバーミングは、ご遺体の消毒・殺菌の他、ご遺体を切開して体内へ防腐剤を注入します。死化粧の他に着付も基本料金へ含まれていますが、専門技術を要する処置のため15万円~20万円程度かかってしまいます。
死化粧が美しい状態で旅立つための準備
死化粧は決して、通夜・葬儀・告別式を行う前に義務付けられた作業ではありません。しかし、故人の表情を明るくする効果があり、個人の尊厳が守られご遺族の心の安静へとつながります。
「せめて自分達で死化粧を施したい。」というご遺族もおられるかと思います。しかし、ご遺体に施す化粧である以上、ご自分の行うメイクとは勝手が違うこともあるはずです。この場合は無理せず、看護師や死化粧師へ死化粧を任せた方が良いでしょう。
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