葬儀に供える樒とは?樒を供える意味と手配方法について解説します
公開日 : 2021/1/14
更新日 : 2021/1/15
葬儀には供花と同じようにお供えされているものが樒です。供花と違い華やかさはありませんが、必要なものだと認識されています。一体その理由はどこにあるのでしょうか。今回は葬儀での樒が必要な理由や手配方法などを解説をしていきます。
公開日 : 2021/1/14
更新日 : 2021/1/15
目次
樒(しきみ)とは?
樒とは、常緑の植物です。詳しくはマツブサ科シキミ属に分類され、中国以東に分布し、日本にも宮城県以西の山地に自生しています。樒は白い可憐な花を咲かせますが、花を始め、葉・実・茎・根のすべてに毒性を有した危険な植物でもあります。
特に種は強い毒性を持ち、間違えて食べると死亡にいたる場合もあります。間違って食べてしまう事故が起きるのは、食べることができるシイの木の実に種が似ていることがあります。
また樒の果実もスパイスで有名な八角に似ていることも誤食の要因の一つです。八角はトウシキミの果実であり、名前も似ていて危険です。
樒はさまざまな呼び名があります。代表的なものは、ハナノキ・シキビ・コウノハナ・ブツゼンソウなどです。樒が最も使われますが、この「しきみ」という名は毒をもつ性質から、「悪しき実(あしきみ)」が元で、そこから変化してきたといわれます。
葬儀で供えられる樒
樒は葬儀で使われる植物として有名です。それは仏教が樒を大切な植物として扱っていることと、昔の葬儀は仏教がほとんどであったことが理由です。その理由を詳しく見ていきましょう。
樒の実用性
樒はその全身に毒があります。また強い香りも持ち、「コウノハナ=香の花」とも呼ばれ、その毒と匂いから獣を遠ざける力が実際にありました。昔は土葬だったため、獣に遺体を荒らされてはたまりません。
そのため樒が土葬した土の上に撒かれたり、樒の木自体を植えたりする風習がありました。また、昔は医学的な死亡診断が判断できず、亡くなった人としばらく過ごす「モガリ」という風習があり、その間に高温多湿な日本では腐敗は確実に進みます。
遺体は腐敗が進むとガスが発生し、腐臭を放ちます。この腐臭をごまかすためにも線香などと合わせて樒が用いられました。その葉を近く散らしたり、乾燥させて火にくべたりするのです。
樒の香りや毒性は亡くなった人を守るための実用的な力を持っているのです。また樒は常緑で一年中、その緑の葉を失うことはありません。葬儀ではお供えとして生花が好まれますが、現在とは違い生花は冬にはほとんど失われます。
現在でも同じ花が一年中というのは難しいものがあります。特に雪深い地方では花は手に入らず、それでも人は時を選ばずに亡くなってしまいます。そのような時でも樒は青々とした葉をしていて、手に入れることができます。
樒はこのようにいつ何時のお供えとしても実用的な側面があるのです。
仏教と樒
仏教と樒は深く関連しています。仏教とともに樒を使う意味は中国からもたらされたといわれています。中国では日本から関わりがあったということですね。なお、樒は「梻」「櫁」などとも表記します。
「梻」は日本で作られた国語であり、分解すると「木」「佛=仏」です。いかに仏教と樒が密接に関係していたかがわかります。
鑑真がもたらした樒の役割
鑑真は中国から日本へと渡り、律宗を開いた開祖です。鑑真は何度も日本への渡航に失敗し、盲目となってさえも日本へとたどり着いた人物で、日本に仏教を広める大きな力となりました。
鑑真が樒を天竺からもたらした、と真俗仏事編という江戸の本に記されています。この本は名前の通り、真言宗の仏事一般について書かれた本です。樒は日本にも自生していますので、もたらしたのは樒を仏教で用いると言う概念だと考えられます。
樒を仏教で大切にし、葬儀でも供えるのは極楽浄土に咲く青蓮華に樒が似ているからです。青蓮華は極楽浄土に咲く非常に美しい青や白の蓮で、樒が似ているのは青蓮華の葉だと言われています。
青蓮華は現世には存在しません。そのため葉でも似ている樒を仏様に捧げることを仏教では重要視したのです。
長持ちする生命力
樒は生命力が強く、枝を切って水につけておくだけで花よりもずっと長く持ちます。また樒と一緒に花を入れておくと花も長持ちする性質をもっているため、仏花などでは樒のみ、または樒と花をセットにされています。
この樒の強い生命力を仏教は尊び、強い生の象徴、長生きの象徴として用いられるのです。
魔除け
樒は先述したように毒を持ち強い芳香を放つ木です。これらは獣とともに悪霊も遠ざけると信じられ、樒は魔除けの力を持つと言われています。昔から人が亡くなったあとの遺骸には悪霊が入り込んで悪さをするとされてきました。
人々は大切な人の亡骸を葬るまで守るために様々な魔除けを施し、樒はその一つだったのです。仏教でもその考えが取り入れられています。枕飾りという亡くなった人の枕元に準備されるお参り道具の中に樒は用意されます。
またお葬式の式場では、樒を式場の入り口の左右に飾ったり、四隅に配置して結界を作るなどして悪霊が入ってこないようにする風習が見受けられます。
仏壇にも樒
葬儀だけではなく、普段の仏事にも樒は用いられます。宗派によって異なりますが、浄土真宗や日蓮正宗、創価学会などの宗派は特に樒を重んじるため、普段から仏壇の華瓶(けびゅう・かひん)に供えられます。
浄土真宗では華瓶に樒をいけることで、極楽浄土に流れる清らかな流れを表す八功徳水を表すとされています。創価学会では尊い樒を捧げることが真心の証とされます。
樒のみをお供えとする宗派
仏教の葬儀では多くの宗派で樒が用いられますが、多くは樒と生花のどちらも使われます。しかし、日蓮正宗や創価学会では樒のみを重要視しています。特に日蓮正宗は祭壇に飾るものや参列者からのお供え、棺の中に手向けられるのもすべて樒と厳格に定められています。
日蓮正宗から派生した創価学会はそれほど厳格ではありませんが、樒を重要視する姿勢は同じです。これは日蓮正宗の考え方に理由があります。日蓮正宗では、一見すると華やかな生花は短命ですぐに散ってしまうものであり、その儚さを憂います。それよりも生命力が強くいつまでも美しい緑の葉を残す樒を尊ぶのです。
また樒は魔除けとして邪気を払う力をもち、強い生命力と合わせて、葬儀を始めとした仏事に樒を用いることでご先祖様の未来での長寿と現在の自分達の長寿を施すことにもなるとされています。
樒を供え物として出すのは?
樒は葬儀で供えられるお供え物の一つですが、地方によって下記のような違いがあります。あくまで大きなくくりと風習ですが先方の葬儀が当てはまる場合は、考慮したほうが良い場合もあるでしょう。
遺族が出す地域
遺族や親族が樒を供え物として出すのは、関西以外の地域です。遺族や親族が身内の死に関してその亡骸を自分で守る意思表示です。そのため喪主や子供、兄弟など比較的亡くなった人から近しい関係の人がお供えをします。
このような地域の場合では、参列者が樒を供えることはほとんどありません。
参列者が出す地域
参列者が樒をお供えする風習が強いのは関西地方です。関西地方では生花や果物のお供えよりも樒のお供えの方が格が高いとされ、積極的に樒をお供えする傾向があります。樒は入り口、つまり門を守るために左右対称に置かれます。
これは葬儀の入り口で悪しきモノが入り込まないようにする門番の役割です。そのため必ず左右に一対の形で供えられます。これを門樒(かどしきみ)と言います。さらに門樒の力を強くするために、入り口の一対とは別に祭壇の後方に一対をおき、4つの樒で結界を作りどの方角からも邪悪なモノが入り込めないようにすることもあります。
現在では葬儀専門会場でお葬式が執り行われることが多く、会場によっては入り口に設置が難しい場合も有り、祭壇の横だけに飾るなどの変更が見られます。基本的に樒をどのように置くかは式場の造りや遺族の考え方によります。
供える樒の形
供える樒の形に決まりはありませんが、多くは塔樒(とうしきみ)と呼ばれる形が主流です。塔樒はその名の通り、塔のような形をした樒です。細長いピラミッド型ともいえるでしょう。
樒の葉をふんだんに使って、樒の葉のみを見せるようにして美しい青々とした形です。そこに名札やリボンをかけます。比較的大きく、基本的には8尺から10尺ほどあります。つまり2.5メートルから3メートルほどです。
この形や大きさから一番目立つお供え物として認識されたり、式場を華やかにする効果もあります。しかし現在では葬儀を行う自宅や葬儀会場が小さくなってきています。そのため、大きな樒を敬遠する傾向が出てきているのです。
塔樒の他には、バスケットに樒を詰め込んだタイプのお供え樒や、式場に合わせて丸型などデザインされた樒もあります。バスケットタイプ以外は比較的大きく、それは塔樒に倣っているからです。
しかしながら大きな樒では会場に入らない可能性があり、現在増えている家族葬専門ホールなどは、供えられるかを葬儀社に尋ねたほうが良いでしょう。葬儀社では会場に合わせた樒の準備もしています。
樒の手配方法
葬儀で樒をお供えしたいと考える場合には以下の手配方法があります。基本的には供花や供物と同じ手順を踏みます。ただ関西地方以外では参列者からのお供えを想定していない地域もありますので、葬儀を受け持つ葬儀社に何をお供えしたらいいのかを訪ねて決める方法もよいでしょう。
また葬儀会場への搬入や飾りの時間を考え、通夜が始まる2~3時間前には注文を完了しておきたいところです。樒の搬入は業者が行いますが、どこに飾るかは供え物をもらった遺族が決めます。
遺族は通夜に向けて様々な準備に追われていますので、できるだけ配慮する必要があります。樒などの供え物が通夜の時間間近の注文だと通夜に供えることが間に合わないだけではなく、間に合っても式場を飾り変えるなどの負担が遺族にかかってしまいます。
なお樒は神式とキリスト教のお葬式では使用しませんので間違って供えないように先方の宗派を確認するなどしておきましょう。
葬儀社に依頼する
葬儀社はキリスト教専門という会社以外は、一般的に樒のお供えを準備しています。また先方の葬儀を取り仕切っている葬儀社であれば式場に合わせた樒を用意していますので、最も確実に樒を手配できます。
葬儀社への電話、FAXやインターネットで樒を手配することができますが、名札を付けるにあたって字の正確さからFAXやインターネットでの手配が適切です。
花屋に依頼する
地域の花屋でも樒を手配することは可能です。しかし取り扱いをしている花屋に限ります。仏壇などで使う樒は取り扱っていても、葬儀用の塔樒の取り扱いはその大きさから難しいのが現状です。
関西地方では取り扱い店が多いものの関西地方以外では少ない傾向があり、確認が必要です。樒の取り扱いがある店なら店頭または電話などで注文が可能です。
樒と榊(さかき)の違い
樒とよく混同されるものが榊です。字自体も似ていますが、榊は木に「神」(示へんはネへんの旧字)と書き、その字が示す通り神道で尊ばれる木です。榊はモッコク科サカキ属で、樒と同じ常緑小高木ですが、毒や匂いはありません。
樒と榊はよく似ています。どちらも綺麗な緑色の葉は常緑で白い花を咲かせます。見分けるコツは葉の付き方、もしくは匂いです。樒の葉は上を向いて四方にまんべんなくついていますが、榊はある一面に葉の表を見せるようにしてついています。
枝を何本か束ねるとより見分けがつきやすいです。樒はボリュームがでますが、榊は葉の面を揃えることで平べったく見えます。枝で区別がつかないという人は、匂いを嗅ぎましょう。樒は独特の匂いがありますが榊にはありません。
神道では枝先がとがった植物は神様が宿る依り代と考えられ、神を祀る祭壇や家の神棚に飾られます。榊も生命力が強く長く持つ植物ですが、神棚の榊は半月に一度は取り替えるのが習わしです。
神道のお葬式では仏式での焼香の代わりに玉串を奉奠します。この玉串は榊の枝に紙垂(しで)や麻をくくりつけたものです。玉串は神様を迎える依り代として神前に供えられ、弔意を示す祈りを神に届ける役割を果たすのです。
神道のお葬式でも会場に塔樒のように榊は供えられますが、供え方の地方による偏りは見られません。一般的には遺族が供えるものとされています。
葬儀と樒について
葬儀と樒は現代では切っても切れないほど深く結びついています。その理由はお葬式を手掛けてきた仏教に樒が深く根付いているからです。樒は一年中美しい緑色をした葉と強い匂い、そして毒を持ちます。
人々は死ぬ時を選べません。仏事も一年中行われます。そのような中で樒はいつでも手に入れることが可能です。姿かたちが極楽浄土の華の葉に似、匂いと毒で悪しきモノを遠ざける樒は仏教にとってとても実用的なものでした。
そのような樒をお葬式で供えることは「故人を守りたい」という気持ちを示すものであり、弔意を表す一つの供え物として現代に受け継がれています。
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