陰膳とは?注意点とマナー・実情を解説
公開日 : 2020/4/20
更新日 : 2020/11/24
陰膳(かげぜん)と聞いてどのようなものかご存知でしょうか?なかなかピンと来ないという方が多いかと思います。実際に陰膳を行う家庭は減ってきており、消えつつある日本の文化です。今回は陰膳の意味と行うにあたってのマナーや気を付けるべき点・大切さについて解説していきます。
公開日 : 2020/4/20
更新日 : 2020/11/24
目次
どこか神道の香りを感じる陰膳とは何か?
陰膳という言葉は、現代社会では意味はおろか言葉そのものを知らない方が大半を占めるでしょう。昔は無事を祈って陰膳を用意していました。
今でも故人の極楽往生を願って仏前にお供えします。どこか神道の香りを感じる陰膳ですが、具体的にどのような意味を持っているのでしょうか?
陰膳の2つの意味
陰膳は大まかに言うと「一緒に居られない家族に向けてご飯を提供すること」と言えます。つまり故人だけに行うものではなく、生きている人にもします。では陰膳はどんな状況でするのか見て行きましょう。
遠くにいる家族の無事を願う
今とは違い連絡手段が発達していなかった遠い昔は、旅先で何か危険な目に遭う確率が高かったり、食料が確実に得られるとは限らず飢えて亡くなってしまう事もありました。戦時中で言えば兵士として戦地へ向かう家族が生きて帰ってくるかは分かりませんでした。
「遠くにいる家族が無事でありますように」・「しっかり食べていて飢えていませんように」と願って残された家族が本人がいなくても一人前のご飯を用意する。これが「陰膳」という日本の慣習です。
今の時代は連絡がスピーディーかつ簡単に出来て、安全に暮らせる世の中ですから陰膳を行う家庭はほとんど無いですが、かつてはこうして家族への想いを表していたのです。
死者・故人の無事を願う
後述する浄土真宗以外では、49日間に渡って旅をした後に浄土、つまり「あの世」にたどり着いて、そして仏様になるという風に考えられています。
亡くなった人に対しての陰膳は、浄土に無事にたどり着く事が出来るように・お腹を空かせないようにという願いで用意するものです。旅という意味では今を生きる人に対しても亡くなった人に対しても、無事でいられるように願う点は共通しています。
陰膳とお供えは違う
「陰膳」という言葉と比較して「お供え」という言葉は聞いた事がある方はいらっしゃるでしょう。ここまで読んで頂き、「陰膳はお供えと同じ」と考えてしまいそうですが実際は同じようで違う点があります。
故人に対しての「陰膳」
先にも述べたように陰膳は生死に関わらず,遠い旅に出た人の無事を願って食べ物を用意する事であり、旅行者・亡くなった人本人に向けての願い事と言えます。
仏様に対しての「お供え」
亡くなった人に対しての陰膳の一方で、お供えは願う対象が異なります。例を挙げると、自然災害を鎮める為や安全祈願の為に神様・仏様に食べ物をはじめ、お線香やお花を用意する事を「お供えをする」と言い、人間界の願い事を叶えてもらうと言う慣習です。
どんな仏具があるのか?
陰膳は「膳引き」という台の上に「仏膳椀」(ぶつぜんわん)という専用のお椀に食べ物を盛って置きます。仏膳椀は5種類のお椀とお椀とお皿の中間の深さである坏(つき)という食器で構成されています。
膳引きと5種類の食器が全てセットになったものが多く発売されていて、amazonや楽天市場でどれもお求めになりやすい価格です。
浄土真宗では陰膳は不要【曹洞宗などの宗派は必要】
浄土真宗では亡くなると、時間を隔てずにすぐさま極楽浄土に行く事が出来る「即得往生」という考え方があります。すぐに極楽浄土にたどり着く、つまり亡くなった人が旅をしないので考え方に則って言えば陰膳を用意する必要が無いのです。
浄土真宗以外の曹洞宗などの宗派では、陰膳を用意する必要があるので、注意してください。
陰膳の用意・片付け
陰膳は、ただ単に用意すればよいというわけではなく置き方や処理方法に意味の込められた決まりがあります。
食器の置き方に決まりはあるのか?【故人の使っていたお盆に載せる】
陰膳は「膳引き」という台の上に「仏膳椀」(ぶつぜんわん)という専用のお椀に食べ物を盛って置きます。仏膳椀は5種類のお椀と、お椀とお皿の中間の深さである坏(つき)という食器で構成されています。
「膳引き」という台の上に食器の置き場所も決まっており、左上に煮込み物を盛る平椀(ひらわん)・左下に白飯を盛る親碗(おやわん)・真ん中に漬物を盛る高坏(たかつき)・右上に煮物や胡麻和えを盛る壺椀(つぼわん)・右下にお吸い物や味噌汁を入れる汁椀(しるわん)
そしてお箸を手前に置きます。また実際に亡くなった人に差し出す時は私達から見て逆の配置、つまりお箸を亡くなった人から見て手前に来るようにしましょう。
料理はどんなものが良いのか?
「一汁三菜」という仏教の考え方から精進料理にすることが基本的です。仏教では全ての生命に優劣は無いという考え方がある為、生き物を殺生(せっしょう)、つまり殺したお肉等動物性の料理は避けられています。
また、植物性の食べ物でもニラやニンニクなど香りの強いものは五葷(ごくん)と呼ばれていて、修行に支障をきたす・煩悩を刺激するという考えから避ける必要があります。しかしながらあまりきつい縛りに囚われず、本人の好きな食べ物や家族と同じ献立にする方もいらっしゃるようです。
料理の点においては各家庭の考え方に左右されていてバラツキがあり、先にも述べた通り亡くなった人・旅行者が好きだった料理や家族と同じ料理にしている方もいらっしゃいます。
法要で料亭等の陰膳を注文するとあまり自由に変更がききませんが、お家では家族の裁量で決められますのでご自身の考え方や亡くなった人・旅行者への想いで選択すると良いでしょう。
処理はどうする?
残った陰膳は「お下がり」と呼び、家族が食べます。ただ法要・会食の場合、ご自身の分を食べた後ですから食べきれないこともあるかと思います。そんな場合は一口で構いませんので何も手を付けない事だけは避けましょう。故人の場合、それが供養となるからです。
また、他の家族・参列者が持ち帰りたいと要望があれば応じても差し支えありません。
陰膳の注意点には何がある?
上記では陰膳の一般的なマナーについて紹介していきましたが、では、通夜や法事などでお供えした陰膳は、いつまでお供えするのでしょうか。
また、お供えした陰膳は、家族で頂いても良いのでしょうか。こちらでは、一般的なお供え期間とお供えした後の陰膳の取り扱いについて説明します。
陰膳のお供えはいつまでなの?
仏教的な考での陰膳は、仏様になるまでの間、故人が無事に旅を続け、極楽浄土にたどり着けるよう願って準備するものです。
そのため、陰膳のお供えは四十九日までとなります。なお、長い間家から離れて暮らしている方に向けての陰膳の場合は、特に期間はありませんので、ぜひ、続けて差し上げてください。
陰膳は家族で食べてもいい?お供えと同じ?
陰膳は、「お下がり」と言って、家族で頂きます。もし、ご自宅以外で陰膳を準備された場合は、持ち帰って家族で頂きます。陰膳を準備するということは、食べること自体が供養となります。
「陰膳」と「お供え」では対象が異なります。「陰膳」は家から遠く離れて過ごしている人もしくは故人となりますが、「お供え」は仏様となります。
浄土真宗で陰膳は行わないのはなぜ?
故人に対して陰膳を準備するのは、故人が仏様になるまでの四十九日間の旅でお腹が空かないようにと願ってのことです。
そのため、人は亡くなったらすぐに仏様になるという即身成仏の考えを持っている浄土真宗の場合、仏様になるまでに旅をすることがありません。言い換えると、極楽浄土までの旅の安全を願う必要がないため、陰膳も必要としていないのです。
陰膳は故人への想い
陰膳は必ずやらなければならない事ではありません。会食の際にお店側から「陰膳はどうなさいますか?」と委ねられますし、家庭でも用意しない事はしばしばあります。また、しきたりに囚われ過ぎる必要もありません。
お寺の祭壇を除けば、お刺身やローストビーフ等の香りの少ない肉料理を出す方も実際に多くいらっしゃいます。陰膳は生死に関わりなく離れている家族を想い語らう絶好の機会とも言えます。陰膳を通してそこにいない家族との時間を楽しく分かち合いたいものです。
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